医療・福祉
医療業界での手書き書類や電子カルテの処理業務にAI-OCRとRPA活用で約1,800時間/年削減。医療DX推進を実現
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- 電子カルテ
- 検査データ
担当者様:総務経理課 ITチーム 南様(写真右)、沖崎様(写真左)
東京・神奈川・千葉を中心に17の在宅医療・訪問診療クリニックを展開されている医療法人社団平郁会の総務経理課 ITチーム 南様にRPA導入前の課題、RPA活用法や成果・効果についてお話を伺いました。
課題
- 以前、RPAロボットの構築・保守を外部に委託していたものの、電子カルテのシステムアップデートの度にRPAロボットのメンテナンス(改修)が発生していたため、多くの手間と時間がかかっていた
- RPA作成やメンテナンスをスムーズに行うため、自社でRPAを導入する必要があった
効果
- 12ものRPAロボットを作成し月間150時間以上もの作業時間の削減に成功
- 様々な部門の電子カルテ周りのルーティン業務を自動化したことで病院全体での効率化および生産性向上を実現
- 毎月発生する単調な作業による従業員の精神的負担と入力ミスを軽減
- 創出できた時間で処方情報の分析の業務が可能に
外部にRPA作成~保守を委託していたものの、RPAロボットの改修に手間と時間がかかっていた
弊会は、2002年に訪問診療中心の医療法人として、東京都と神奈川県のクリニックから始まりました。今は東京と神奈川、千葉で多くの患者様の療養生活を支援する一方、診療の訪問診療の体制が整っていない地域の訪問診療普及にも取り組んでいます。
私は総務経理課に所属していて、そのなかでもITチームでIT機器の管理や社内システムの保守運用を担当しております。
元々、RoboTANGOとは別のRPAツールを導入していたのですが、RPAロボットの作成や保守は外部の業者に任せていました。弊会で利用している電子カルテシステムが自社独自のものではなく、ベンダーが提供するサービスだったため、アップデートの度に画面の変更があり、その都度業者にRPAロボットの改修を求めなくてはならず非常に手間がかかっていたのです。
また、RPAロボットの作成・保守を委託していた業者が保守サービスをクローズすることになったのも導入検討を開始した理由の一つでした。すでにRPAは業務に欠かせないものとなっており、これまでの経緯から「自分たちで運用できるRPAを導入したい」と考えたとき、これまで使っていたRPAで検討を進めようとしたものの、操作が複雑で難しかったのです。そこで、「操作が簡単で初心者でも扱いやすいRPAであること」を前提として導入の検討を開始しました。
導入の決め手は「操作性」「フローティングライセンス」「サポートの充実」
導入は以前から使っていたRPAとRoboTANGO、もう1つを比較し3つのRPAの中で検討していましたが、最終的には次の点でRoboTANGOの導入を決めました。
- 操作が簡単でありながら、複雑な業務を行うRPAロボットの作成も比較的容易にできること
- フローティングライセンスにより、1ライセンスで複数台のPCで扱えたこと
- サポート体制が充実していたこと
特にサポート体制においては、担当者の方が親身になってサポートしてくれたことで、この方に任せれば安心してRPA活用ができると思ったのが大きな決め手となっています。RPAに対する知識が何もなく1から学ぶところから始められるところがいいなと思っていたので、担当者の方が手取り足取り教てくださり、これだったら自分たちでもできると思いました。
また、RPAと同時にカスタマーサポートにおける効率化も検討しており、OCRツールが必要ということから、RoboTANGOとシナジーの高いAI-OCR「DX Suite」も併せて導入しました。
RPAとAI-OCR導入で年間1,800時間の作業時間削減を実現
(1)検査データを電子カルテにアップロード
血液の検査を外部企業に委託しており、採血した検査データが検査を委託している企業専用のシステムにアップロードされるため、それをダウンロードし弊会の電子カルテにアップロードしていました。RPA導入前は手動で1日8回、365日フル稼働で行っていました。
弊会は17クリニックを運営していますが、そのなかで10クリニックで行っている業務で、検査システムからダウンロードしたデータを10クリニック分電子カルテにアップロードしていきますが、作業時間は1回5分(10クリニック分)×1日8回×30日=20時間/月かかっていたのです。これがRPA導入により作業時間はゼロになりました。
現在は無人で行っていて、エラー等で止まったら随時メンテナンスをしてるだけで基本的には放置している状態です(笑)。
(2)全患者の処方情報を抽出(分析に使用)
弊会では、患者様への無駄な薬剤処方を減らすために、処方状況の分析を行っています。
事前に電子カルテから全患者のIDと名前をダウンロードしておき、それをもとにRPAで各患者のデータにアクセスし、現在処方している薬剤の情報をExcelにコピー&ペーストしています。頻度としては3か月に1回の作業ではありますが、手作業でやっていた時は1人分当たり90秒ほどかかり、それが7,000件ありましたので最も時間がかかる作業でした。しかしRPAで自動化したことで作業がほぼゼロになり、175時間の削減につながっています。
ただ、今RPAが行っているのは処方情報を抽出するところのみで分析するのは人間の手で行っているため、今後は分析もRPAやAIの技術を活用して自動化していきたいですね。
(3)OCRでスキャンした請求先の情報を電子カルテのサマリー画面に入力
患者や施設の方からの電話対応、請求処理など患者様から届く手書きの請求先情報の文字を自動で読み取りさせたく、AI-OCRを導入しました。今までは手書きの情報を一回メモ帳などに手打ちし、電子カルテのサマリーの箇所に入力する作業を手作業で処理していたのですが、かなりの手間がかかっていました。
現在は請求先データをOCRで読み取り、RPAが読み取ったデータをCSVでダウンロードし、データを電子カルテに入力するという一連の流れ作業を自動化しました。
現在、手書きと電子契約がありますが、OCRは手書き書類処理の自動化に利用しています。効果としては1回5分で1日15名(15枚)程の処理を毎営業日実施していたため、1日75分、月にして25時間かかっていたものがゼロに削減されました。
医療現場ではミスが許されないということと、CSVの情報をサマリーに入力しているのではなく一部分を加工して、○○様分という加工をして入力しているので現在でも念のため最終的なWチェックをしています。ただ、チェックした後に修正の発生もなく、ミスも起きていないようです。
(4)電子カルテのユーザー登録
運営している17クリニックでは、それぞれのシステムに職員のユーザー情報を登録する必要がありますが、手作業で行っていた時は毎月クリニック数分(17回)も同じ作業を繰り返していました。また、多くの職員が複数のクリニックにまたがって勤務するため、入社したら全クリニックのシステムに登録する必要があります。月に20人程度の職員情報を処理しており、トータルで30分ほどかかる面倒な作業でした。
流れとしては、ユーザー登録の依頼は事務長からフォームを経由して情報が送られ、特定のスプレッドシートに反映されます。そしてスプレッドシートが更新されると自動的にRPAが動き出すようにしています。
この1つの業務の中で3つ条件が異なるRPAロボットを作成しています。これにより月に10時間の作業工数削減が実現しました。
名前やフリガナの入力だけでなく、ユーザー区分やあいうえお順で数字を当ててカルテの順番を変えなければいけないというルールもあり、それをRPAロボットがやってくれるので工数の削減だけではなく、ミスがなくなったのも大きな効果です。
(5)入金情報と電子カルテの収納情報の突合・消込作業
これは医事科の業務で、現在、患者様から入金された情報の整理を外部委託していますが、今月患者から診療費の入金があったという情報がExcelで送られくるので、電子カルテの情報が一致しているか突合して消込をする作業です。この作業のなかで、月1回、36時間ほどかかるファイルの突合から消込作業をRPAで自動化しました。
この作業は毎月7,000件くらいありますが、7割ほどの自動化に成功しています。3割は特殊で備考欄に記載があるとスキップする仕組みになっていて特殊な場合は人力で作業していますが、それでも7割(4,900件くらい)は自動化できたのでかなり楽になりました。
また、すべてのRPAロボットは作業完了・エラー発生したらChatworkに通知を行っていて、それぞれの部署の人を招待していて止まったらみんなが分かるようにしています。また、作業が完了したらExcelファイルが添付されるようにしており、どの作業が”成功した”のか、”失敗した”のかが一目分かるように工夫しています。
ほか、患者様を検索してExcelには名前載ってるけど、カルテがまだできてなくて、検索したら出てこなかった人もいますので、そういうのはIDがまだできてませんとかコメントを打てるようにしてますので検索も効率化しました。
結果として、OCRとRPAを導入したことで年間1,800時間の作業時間の削減が実現しています。
- 自動化の前に業務オペレーションを整える
- メンテナンスを最小限に抑えられるようなプロセスで実施する
RPA化を進める前に業務オペレーションを整えることです。RPAとしてシナリオを組む前にそもそも業務のオペレーションが乱れてることが多いので、打ち合わせを行う中でこの作業が無駄ではないか、フォーマットはおかしくないかと意見交換をしてからRPAロボットを作成するようにしてます。
また、新しいクリニックがどんどん増えているので、新規クリニックが増えてもRPAロボットのメンテナンスが少なくて済むような工夫をスターティアレイズの営業担当者さんと一緒に考えて作っています。RPAはどこかで絶対にメンテナンスが必要になるため、現在は自分の手が届く法人フォームのみで運用するようにしています。
今後はRoboTANGOの活用を広めつつ、新たなソリューションやトレンドを取り入れ医療DXを推進していきたい
現在はカスタマーサポートや医事課などでRPAとAIOCRを使っていますが、それ以外の経理や労務などでも使えると感じています。ただ、絶対にみんながRPAやAIOCRを操作できる状態じゃないと効率化につながらないので、ITチームを増員し広く展開させていきたいと思っています。
また、現在、業務管理ツールのkintoneを導入しようとしていて、それでノーコードで簡単にAPI連携を行うことができるJENKAが使えそうだなと思っています。ほかにもMDM(モバイルデバイスマネジメント)ツール「ランスコープ」とkintone、Chatworkなどとつなげていきたいです。
ほかにも情報の抽出だけではなく分析や評価もできるよう、たとえばChatGPTと連動させられないかといったことも研究中で、トレンドであるITツールを取り入れ、DX推進を強化していきたいです。
手書き文字を扱う機会が多い医療業界にRPAやOCRはおすすめ
同じ医療業界であれば絶対使いどころはあると思います。IT知識がない方でもセミナーを受けて1から学習すればすぐ使いこなせるので積極的に導入することをおすすめします。それこそ手書きの文字を扱う機会が医療は多いと思うので、OCRとの連携もうまくいくんじゃないでしょうか。
医療現場はほかの業種に比べIT化が進んでいない部分も多くありますが、これから先、ITの進歩から逃れてやっていくのは難しいですし、積極的に活用して行った方が良いのではないかなと思います。