よくあるRPA導入の失敗事例
日本では2018年ごろから急速に広がりを見せているRPA導入。これまでに起きた失敗事例から、よくある失敗の傾向を紹介します。
十分に活用できず導入効果を感じられない
RPAの導入失敗事例としてよく聞かれるのが、「RPAを十分に活用できず導入効果を感じられない」というケースです。たとえば、残業時間を減らしたいという理由で残業が多い部署にRPAを導入したとします。しかしながら、その残業の原因となる業務が人間の判断を要する作業や、PC上の操作で完結しない業務であれば、RPAによる自動化はできないため導入は失敗に終わってしまいます。RPAには、向き不向きとする仕事があり、すべての業務に対して作業効率アップが狙えるわけではありません。RPAの特徴を理解せずに導入しても、十分な活用はできず、導入は失敗に終わってしまいます。 また逆に、現状特に負担になっていない業務やボリュームの少ない業務にRPAを導入しても、目立った効果は感じられないでしょう。RPAは基本的に膨大な量の定型業務を人間よりも速く正確に代行することで、業務の効率化を実現できるツールです。負担になっているボリュームの多い定型業務がなければ、導入しても費用対効果は得られず無駄に終わってしまいます。
現場側と経営側で温度差があり浸透しない
現場側と経営側に温度差があり、RPAが浸透せずに導入失敗に終わってしまうケースもあります。経営側は、業務効率化を目指してRPAツールの活用を推進します。しかし、実際にRPAを使って業務の自動化をするのは、現場の人間です。現場側には、RPAの必要性がわからないという者や、RPAの導入により自分の仕事が奪われてしまうのではと不安を感じる者もいるでしょう。 「RPAによる定型作業の自動化により、人間は浮いた時間をより生産性の高い業務に注力できる。そうすることで生産性が向上でき、企業全体のメリットへとつながる。」こうした説明が経営側からなされない、または現場側で理解されなければ、協力体制は構築されずRPAは活用されないまま導入は失敗に終わってしまいます。
メンテナンスや促進する社内リソースがない
RPAの運用は「ロボットを一度設定すれば終わり」ではなく、ロボットの管理や定期的なメンテナンスが欠かせません。RPAはアプリケーションを選ばずPC上の業務を自動化できるツールで便利ですが、その連携したアプリケーションのアップデートなどにより、UIが変わってしまうことでロボットが停止してしまうリスクがあります。そこで、定期的にメンテナンスを行う担当者を設ける必要性があるため、RPAに充てるリソースは必要となります。 最近では多くのRPAツールが、プログラミングの知識不要で簡単にロボットを作成できる仕様になっているため、ロボットが停止した際に現場にいる実際の業務担当が直接修正でき、迅速な対応が可能です。現場で利用しにくいRPAツールを選んでしまうと、野良ロボットの発生率が高まったり、ロボットのブラックボックス化につながったりします。 野良ロボットはバックグラウンドで勝手に動きまわり、業務をストップさせてしまう原因になるだけでなく、最悪の場合、システムダウンの原因にもなり得ます。RPAのブラックボックス化とは、RPAが担っている業務を誰も把握していない状態。つまり、誤処理が起こっていても誰もそのことに気づけないということです。 このように社内にRPAを促進・管理するリソースがない運用体制では、業務効率化どころか、業務の妨げになってしまい、RPA導入は失敗に終わってしまいます。
RPA導入が失敗してしまう理由
これら事例のようにRPA導入が失敗に終わってしまうケースは少なくありません。では、RPA導入が失敗に終わってしまう原因はどこにあるのでしょうか。ここでは、失敗事例からその原因を学んでいきます。
目的が不明確のまま導入
RPA導入時に、「導入する目的が不明確」な場合は失敗するケースが多いです。なんとなく業務効率化できそうだから…、RPAが流行っているから…、競合他社も導入したから…、などの理由で導入を決める企業は少なくありません。このように導入の目的が不明確だと、導入すべき業務の選定があいまいになり、最適なRPAツールの選定も難しくなります。結果、RPAツールをうまく活用できず、導入効果も得られなくなってしまいます。 RPAは、うまく活用できれば業務効率化やコスト削減などさまざまなメリットをもたらすツールです。RPAを導入して業務自動化を成し遂げる!RPAを導入して残業時間を減らす!RPAを導入してコア業務に注力する!など、「RPAを導入した結果どうなりたいか」、「どう使いたいか」という明確なゴールを設定しておかなければ、RPAは活用されることなく導入は失敗に終わってしまいます。
ロボ設計上のミス
「ロボットの設計上のミス」もRPA導入が失敗してしまう原因のひとつです。ロボットは、人が設定したシナリオ(業務手順やルール)に従って業務を自動的に実行します。そのシナリオが不正確であったとしても、RPAはその誤りを検知できません。その誤った手順通りに業務を実行し続け、間違った処理や誤作動を引き起こしてしまいます。結果、修正作業や回収作業に人員や時間を要したり、誤ったデータによりクレームにつながったり…。本来、業務効率化を実現できるはずのRPAですが、ロボ設計上のミスによって、逆に業務負担となってしまう恐れがあります。 ミスが起きないように、シナリオを完成させた後、テストを行い正常に動くのか、業務を完了できるのか確認を必ず行いましょう。
RPAでできることを理解していない
RPAは、全ての業務を自動化できるマジックツールではありません。RPAにはできることとできない業務があります。RPAが得意としているのは、以下のような業務です。
得意なこと
- 単純な定型作業(請求書や伝票の処理 など)
- 反復作業(情報収集、転記作業 など)
- データ収集 / 集計 / 分析業務(スクレイピング、グラフ作成 など)
- 電話 / メール対応のサポート業務(メールの自動振り分け、顧客情報の照会 など)
- 複数のアプリケーションをまたぐ作業(複数の社内システムから必要なデータを抽出し統合する など)
逆に以下のような業務はRPAには向いていません。
苦手なこと
- 判断が必要な業務(計画立案、デザイン制作 など)
- 複雑すぎる業務(ルールが多すぎたり実装する分岐が多すぎる業務)
- PC上の操作で完結しないもの(書類をスキャンする など)
RPAに向いていない業務に対してロボットを導入しても、開発に時間を要するだけでなく、エラーが多発したり、定期的な更新によって業務が停止したりといった問題が生じます。 RPAができることとできないことを区別せずに、なんでも自動化するという方針ではRPA導入は失敗に終わってしまいます。
メンテナンスをしていない
RPA導入後に「メンテナンスをしていない」というのもRPAの導入が失敗する原因のひとつです。RPAの運用には、トラブルの対処やプログラムのバージョンアップ、Webサイトのリニューアルなどに合わせたメンテナンスが必要です。また、業務プロセスに変更があれば、ロボットのシナリオも変更する必要があります。こうしたメンテナンスを怠ると不具合や誤作動を引き起こす原因になります。「RPAを導入したらあとは放置」では、トラブルが多くなり業務が効率化するどころか反対に業務時間が増えてしまうことになりかねません。 また、RPA運用にこうしたメンテナンスが必要なことを理解せず、頻繁な変更が予想される業務をRPA化してしまうことも失敗原因となります。頻繁に業務フローが変更になれば、頻繁なメンテナンスが発生し業務時間が増加します。結果、自動化により削減できた工数よりもメンテナンスにかかる管理工数が大きくなり、費用対効果が得られることはありません。
RPAに依存し過ぎている
RPAはあらゆる業務を自動化できる便利なツールであるため、RPAに依存し過ぎてしまうケースがあります。しかしながらRPAには、システム障害やエラーにより業務がストップしてしまうデメリットがあります。エラー対応がスムーズにいき、すぐに処理が再開できればいいですが、解決できない場合は人員を割いて作業を代行する必要があります。 また、業務をRPAに依存することで、業務のブラックボックス化を招く恐れがあります。RPAを導入した業務の担当者が異動や退職すると、その業務の手順や注意点、RPAの設定について知る人がいなくなってしまいます。しかし、RPAは担当者がいなくても、エラーの発生やプロセスの変更がない限り作業を続けます。そのため、周囲は何か不測の事態が起こらない限りこのRPA化された業務に目を向けることはないでしょう。こうして、業務がブラックボックス化することで、業務プロセスの変更時やトラブル発生時に対応できないという問題が起こりかねません。 トラブル発生時の対応や体制が整っていない状態でRPA化を推し進め、RPAへの依存が進んでしまうといざと言う時に業務停止のリスクが高まります。
導入の効果測定を行っていない
RPA導入の効果測定をしていないケースも導入が失敗に終わる原因になります。RPA導入後にきちんと効果測定をしないと、導入して良かったのか悪かったのか、継続した運用は必要なのかなどの判断ができません。効果測定をしないまま「なんとなく便利」といった程度で運用を続けてしまうと、実は業務効率化には結び付いておらず、単にRPAの運用費用だけがかさんでいるということも考えられます。 また、導入の効果測定をしていないことで、改善点に気づくことができず、気づけば失敗に終わっていたというケースもあります。RPA導入を成功させるには、PDCAを回し続けることが大切です。PDCAとは、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返すことによって、業務を継続的に改善していく手法のこと。RPA導入により削減した労働時間や対象業務の処理件数、エラー数などの効果を可視化できていないと、PDCAを回すことができません。つまり、改善点に気づくことができず、RPA導入を失敗に終わらせる原因となってしまいます。
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RPA導入を成功に導くための秘訣
失敗は成功のもとです。失敗事例から、RPA導入を成功に導くための秘訣を学びましょう。
導入目的を社内に示す
「RPAの導入目的」が曖昧な場合、RPAの導入は失敗しやすくなります。そのため、RPA導入において、まずは、RPAの導入目的を明確にする必要があります。RPAの導入目的は、業務効率化や製品・サービスの質の向上、業務スピードアップなどさまざま考えられますが、「どういった課題を解決したいのか」を明確に提示することが大切です。 目的を明確にした後は、それを社内で共有し、導入に対する理解を促すことも忘れずに。RPA導入後の現場の業務イメージやメリット、ゴールに向かってどうRPAを活用していくのかといった方針を具体的に示すことで、全社一体となってRPAの使用を促進していくことができます。
RPAで改善する業務を洗い出し選定する
RPA導入を失敗に終わらせないためには、「自動化業務の正しい選定」が重要です。RPAはあらゆる業務を自動化できますが、判断を要する作業やPC上の操作で完結しない業務など自動化できない業務もあります。そのため、まずは現状業務を洗い出し、プロセスの見直しや整理をしたうえで、RPAで自動化できる業務を選定していく必要があります。単純な定型業務やデータ処理、繰り返しの多い作業などRPAに向いている業務や、ボリュームの多い作業など導入効果が出やすい業務を選定するといいでしょう。 また、この時点で、「〇〇業務の作業時間を5時間短縮する」など業務自動化後の数値目標もあわせて決めておくことをおすすめします。数値目標を設定することで導入効果を可視化でき、PDCAを回せるため失敗しにくくなります。
担当者やプロジェクトメンバーなど管理体制を整える
RPAの導入・運用体制が不十分であると、導入が失敗に終わる傾向にあります。そのため、RPAを導入する際には、社内に導入プロジェクトを立ち上げ、担当者やプロジェクトメンバーを専任し、しっかりとした導入体制を整える必要があります。プロジェクトはRPAに知見がある社員を中心に、RPA導入の目的をしっかりと見据えて進めていきます。プロジェクトメンバーは該当部署の社員はもちろん、経理や総務などRPAに向いている業務を多く抱える部署の社員を加えるのもよいアイデアです。プロジェクトチームで導入までに行うべき作業をリストアップし、進捗を管理していきましょう。 また、RPAの運用中にも徹底した管理体制が必要です。RPAは導入すればそれで終わりではありません。定期的なメンテナンスやトラブル対応、さらにはPDCAを回し続けることが大切です。そうした運用中の管理を怠らないことで、高い生産性を維持することが可能になります。
目標を達成できる、かつ現場が操作しやすい
RPAの導入を失敗させないためには、自社に合った最適なRPAツールを選ぶことが重要です。どんなに機能が豊富なツールでも、自社のRPAの導入目的に合ったものでなければうまく活用できず意味がありません。導入規模の大きさや業務範囲の広さ、どういった作業を自動化したいのか、自動化したい対象のシステムに対応しているか、予算はどの程度か。これらを明確にしたうえで最適なRPAツールを比較・選定することが大切です。 また、社内でRPAを普及させ導入効果を得るためには、「RPAツールの操作性」も考慮すべきポイントです。操作が簡単で現場が中心となって運用できるようなツールであれば、業務の自動化を進めやすくなります。 これらの視点でRPAツールを比較・選定した後は、すぐに本格導入するのではなく、トライアルを行うことをおすすめします。操作感や社内ツールとの相性など、実際に使ってみないとわからないものです。現在法人向けに提供されているRPAツールの多くは、2週間から1ヶ月程度のトライアルが可能です。トライアルを活用して、目標を達成できる、かつ現場が操作しやすいRPAツールを選定しましょう。
導入前後にサポートがあるベンダーを選ぶ
RPAツールのベンダーに、導入コンサルティングやトラブル発生時の対応、従業員への教育などといったサポート体制が整っていれば、失敗する可能性が低くなります。ツール自体の性能がよくてもサポート体制が不十分ではRPAの導入効果を最大限に引き出せないどころか、最悪、運用ができないで終わってしまうケースもあります。RPAの導入・運用を失敗に終わらせないためにも、事前にベンダーのサポート体制を確認しておきましょう。 ベンダーの導入前後のサポートには以下のようなものがあります。
【導入前】 | 【導入後】 |
業務診断 | 電話やメールによるサポート |
業務ヒアリング | 対面サポート |
業務の洗い出し | FAQ |
業務改善の提案 | コミュニティの提供 |
トライアル | セミナーの開催 |
ロボット作成のサポート | ユーザー交流会の提供 |
研修 | |
テスト稼働のサポート |
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もちろん、どのRPAツールにおいてもこれら全てのサービスを受けられるわけではありません。会社または該当部署がどんなサポートが必要なのかを見極め、それが得られるRPAツールを選びましょう。特にRPAの知見や運用に自信がない場合は、導入前の準備段階での手厚いサポートや、導入後のトラブル時などに電話や対面でのサポートが得られるツールを選ぶとよいでしょう。
まとめ
RPA導入の失敗事例を通して、失敗する原因と失敗しないための対策を紹介しました。 RPAは導入に失敗しなければ業務効率化や生産性向上など企業に大きなメリットをもたらす便利なツールです。RPA導入が失敗してしまう理由は、事前の準備不足やRPAに対する知識不足からくるものです。RPA導入の目的を共有し、現場が使いやすい最適なRPAツールを選定し、サポート体制を含む徹底した管理体制を構築できれば準備は万端。RPAの知見に関しては、この記事だけでなく、他の記事やセミナー参加などで培っていきましょう。あとはベンダーのサポートを得ながら導入を進めていけば、きっとよい成果を得られるはずです。 失敗事例から成功のためのコツを学び、導入への次の一歩を踏み出しましょう!